「美人画の描き方」第8章 実習
「蛍」は絹本、縦約 1尺4寸、横1尺(42×30cm)の
小品絹絵である。初夏さわやかなる宵に、美しき若婦人が団扇を挙げて
蛍を追う半身姿を写した。清楚のうちにあでやかなる気分を表すことが
この絵の主眼である。したがって、服装などの色調も、
年齢はふさわしくて而も派手にならぬ用意が必要であろう。諸君が今この図を原寸大に制作するとする。
「美人画の描き方」伊東深水著 p112
それには、下図、描線、着色で 少なくとも二日以上の
日子を要することを覚悟せねばならぬ。(略)
なんと、塗り絵のように仕立てた絵に番号を振って、
番号順に描き進められるように説明していきます。
6章、7章の説明よりももっと、かな?
細かすぎて、説明文をご紹介できませんが ^^
第8章は、13ページ約4400字と「運筆の順序」の絵で構成です。
最後に、少し引用文を載せることにします。
描き方というより、深水先生のお人柄や、
当時の雰囲気を味わえます^^
一か所の色を出すにもずいぶん何回かの手間を
重ねることが分かったであろう。
顔の仕上げ、紙の仕上げのごときは、実に数回の色を重ねて
初めて品よく落ち着いた色の表れるものであることを知らねばならぬ。
なお、着色の順序も、
しいてこの説明通りに従わねばならぬことはないし、
また説明通りにやっていても
必ずそう注文通りに仕上がるとどうかはわからない。(中略)
この記述は、大体の筆の運びであり、
また私としての筆の順序である。
諸君はこれを参照して今まで読み来た諸知識を生かし、
自ら工夫を積んで会心(満足する)の境に入らねばならぬ。
「美人画の描き方」 p122~p123
「美人画の描き方」第9章 草画
『草画』の定義は、大まかな筆づかいで描いた絵。
主に,南画系の墨画・淡彩画とのこと。(デジタル大辞泉)
深水先生によれば、礬水を使わない生紙に描写するもの、
書で言えば、楷書と草書の、「草書」という定義とのことです。
要点を次に並べてみます。
(6ページ約1600ページの要約)
- 円山・四條の末流では、
草画は、基本的練習と定めていたほど大事。 - 草画の妙味は発墨(はつぼく)
※溌墨とは 水墨画 の基本的 画法 の一つ。
伝統的な 骨法用筆 のたてまえに従う 破墨 に対し,
輪郭線を描かず直接に墨を溌 (そそ)ぎ,
その濃淡のある墨のかたまりによって形体を表す。 - 紙の性質から、躊躇逡巡を許さない、
作者の気稟(性質)を良く表し、痛快な味がある。 - しかし、その技巧に走るだけでは、品を低下させてしまうので、
気を付けるべき。 - 本格的な本画をしっかりと描けるのであれば、
美人画においても、単純化した草画が
描けるようになるだろう。 - 草画の名人は、丸山応挙、呉春
明治では、玉章。現代では、竹内栖鳳、西村 五雲、平福百穂
なるほど。
「ほたる」の草画は、軽いタッチでいい感じだね。
力まない筆跡が、涼しげな空気や人の動きまで描けてるって感じ?
そうだね!
とにかく、筆の扱いが早く手になじむように、
私もがんばろっと。
利き手の手首は、硬くなってるけど、
がんばろっと^^
この章では、著作の口絵にある、絹の作品「蛍」
を例にして、深水先生の実習の指導に入っていきます。
冒頭、この作品について、次のように、述べられています。
『なるべく実寸大で、
または、それより小さすぎない大きさで、
下絵、描線、着色を実践すべしと奨めている。』
描き進める順番や、墨の入れ方、筆の運び方、
絵の具の作り方などなど、
実に細かく指摘説明されています。
文字だけの説明にも着手されたのは、根気の要ることだけれど、
この時期、自分の絵画塾をはじめていたので、
後続する画学生に期待を持っていたことと、
自身が、若年で活躍してきた画人として、日本画の発展について寄与したいと責任を感じていたのだと想像します。
今なら、動画で説明すれば、簡単なのでしょうから、
その根気強さには、感服いたします。