日本画家【伊東深水】技術をまねる!念紙を作る!など…著作から日本画を学ぶ⑤

小下絵の一例、
小下絵の一例、

    「美人画の描き方」第5章 技術 

    小下絵の一例、「秋晴」資料の一
    小下絵の一例、「秋晴」資料の一
    わたし

    さて、実践の続きです。
    今回からは、更に具体的な技術について。
    楽しみですね。

    旧字体が多く読みにくいので、基本的に私が独自に
    要約したものを載せます。
    今までもですが、なるべく偏りのないよう心がけます。

    ⑴下図
    ⑵念紙と引伸
    ⑶描線
    ⑷着色と暈渲(うんせん:色をぼかして表すこと)
    ⑸調色

    ビリー

    初めまして。わんこのビリーです。
    いつか僕のことも日本画にしてね~

    では、深水先生のご著書を拝見します。

    ⑴下図 

    (8ページ分約2000字を要約)

    • 構想が浮かんだら、まず小下図を作る。
    • 人物の時も静物でも、その背景、添景までしっかりと描く。
    • 時には、写真を参考にしたり、応用することは、
       悪いことではない。現代人の特権である
    • 写真と、絵画とは、その職能を異にする。
    • ただし、いたずらに頼るのは、価値をなくし、
       創意をなくす恐れがあるので、自然から受けた感銘を
       基礎としなければならない。
    • できた下図は下に置かず、假張(パネルなど)に貼るか、
       壁に貼るなどして、全体を楽に見れるようにする。
    • 何度も書き換えるので、耐えられる紙であれば
       紙の種類は何でもよい。何度も修正を重ねる。
    • 十分に手を伸ばして書くようにする。
       木炭なら、長い木炭ばさみを使う。
    • 更に紙を重ね、それを清書して整え完全な下絵を作る。
    • 下図の時に不安な点があると、
      本図でどうにもならなくなることがあるので注意する。
    • この過程は、本図の製作とは違う楽しさがある。
    • 大家の狩野芳崖、橋本雅邦先生でも、下図に
      苦心惨憺の跡があったり、二十余枚もの下図が残っている。
      一枚の絵のために、労力を惜しまない。
    • 習作(練習用の作品)では、汚くなっても良いので、
      ぶっつけで自由にやることも必要である
    「秋晴」資料3
    「秋晴」資料3   
    ⑵念紙と引伸

    (2ページ分約600字を要約)
    ※ 原文では、「製作」という漢字で書かれていますが、
      現在では、「制作」のほうが妥当なので、
      ここから先は、「制作」に換えることにします。

    • 絹本の制作では、透けるので、枠があれば、
      下図の写しは簡単。紙本制作では、細かな部分を写すには、
      念紙を使う。
    • 念紙の作り方。日本紙を揉んだものに、
      木炭を粉にしたものを「お酒」で練ったものを
      平らに塗り付け、乾かす。
    • 小下図を大きく伸ばす時は、方眼式引伸法
      参考までに、紹介する。

      小下図に、碁盤状に線を引き、大きくするほうへ、
      同じ比例で描きうつす方法。
    • ただし、この方法には、賛成しない。
      写し取っている間に、創造的な気迫を失ったものが
      出来上がることが多い。
    • 不正確な点があった場合、それが増長されてしまうから。
      初学者は気づきにくい。
    • よって、小下図を見ながら、創作力を駆使して、
      下図を「創作」することを望む。
    描線の参考 河川図 美人
    描線の参考 美人絵    右ページの挿絵は歌仙絵  左ページの挿絵は懐月堂の浮世絵
    ※歌仙絵とは、三十六歌仙など有名な歌人の姿を描き,それに代表的和歌などを書き添えたもの。鎌倉時代に盛行。
    「遊女立姿図」懐月堂度繁筆 紙本着色 江戸時代・18世紀 
    「遊女立姿図」懐月堂度繁筆 紙本着色 江戸時代・18世紀 
    ⑶描線

    (6ページ分約1000字を要約)

    • 線には、2種類ある。
      西洋の線は、ものや状態を表す「すじ」であり、
      東洋の線は、「筆意を表す線」である。
    • 墨絵は、あらゆるものの性情と作家の気迫を表すので、
      西洋画の素描とは全く異質なものである。
    • 古来から名前のある線
      「枯柴描」…ぽきぽきとした線
      「釘頭鼠尾(ていとうそび?)描」
        …打込みが強く終わりが細くなる線
      「蘭葉描」…柔らかに連続を見せる線
      「鉄線描」…肥痩なく細くて力のある線
      「遊糸描」…糸のように細くて柔らかい線
    • 古来、美人画に用いられた線は「遊糸描」が多い。
      江戸時代の懐月堂一派のような太い線は例外。
    • 人物画は、仕上げに入れる線によって
      最後の死命を制するものであるから、
      古画の模写、臨画の練習を積むべきである。
    • 線の引き方。 
      軽く肘をあげ腕に力をこめ、躊躇せず、気持ちを保つこと。
      細かい線を引く時は、手首は筆の穂の近くまで下げるが、
      気持ちは、同様に充実させて保つこと。
    • ヤタイ引き(建築等に用いる)という
      定規を使う方法をとることもある。
      定規の溝に軸となる棒を当てて、
      まっすぐな美しい線を引くことができる。
    筆の持ち方
    筆の持ち方
    ヤタイ引き
    ヤタイ引き
    ⑷着色と暈渲(うんせん:色をぼかして表すこと)

    (7ページ分約2400字を要約)

    • はみ出さずに塗る。むらなく塗ること。
    • 絵の具の量は、必要量の二倍は作る。
    • 余った絵の具は、膠抜きができるので、(ぎりぎりに作らず)
      ゆとりを持つことが大切である。
      ※膠抜きとは、余った絵具から膠分を抜いて、粉の状態に戻すこと。
       お湯を注ぎ、絵の具を沈殿させ、水分を取り除く。
    • 画面左上から右下へ、塗り進める。
    • 筆に含む量は、溜まりすぎず、かすれないように。
    • 顔彩を使うにしても、一度絵皿でかき回し、ムラをなくす。
    • 大きな画面には、刷毛や連筆を使う。
      画面に一度、水を引いてから、色を塗る。
      続いて色を塗っていけば、筆跡が少なくなる。
    • 絹の場合や大作の場合は、立てかけて塗るほうが
      良い結果になることがある。

      その理由は、全体を見渡せること、
      1か所に湿度が溜まらないこと。
      金箔を貼るときにも有効。
    • 絵の具はすべて、薄いものを重ねて塗る。
      下の絵の具がしっかり乾いてから塗る。
    • 「張紙の法」…塗りたくない部分に薄い紙を貼っておき、
      彩色した後それをはがす方法
      初学者は、十分に熟達してから試すべきで、
      丹念に塗り重ねることをすべき。
    • 「彫塗り」…描線を避けて塗る
      「つぶし塗り」…描線の上から塗る

      「彫塗り」はほとんど用いられていない。
    • 「隈取り」画面に水を引いておき、半乾きの時に
       濃くする部分から塗り始めて、次第に一方へ
       水を含んだ水刷毛でぼかしていく。
       その時、馬毛の硬い乾いた刷毛を使う「カラ刷毛の法」
       でもよい。初学者は、水刷毛を学ぶほうが良い。
    • 絵の具とぼかす水の分量が平均していないと
      ムラができるので注意する。
    • 「返り隈」…明るい部分を浮き立たせるためのぼかし方
       人物画の顔や手足に、花鳥画では、花びらなどに。
       隈取りの中でも特に慎重さ潔癖さ、修練が必要。
    • 彩色筆と隈取り筆の両方を持ち、交互に使用する方法が良い。
      ※参考写真あり。
    隈取り2本筆
    隈取り2本筆
    ⑸調色 絵の具の溶き方

    (13ページ分約4400字を要約)

    • 美しく塗るためには、絵の具の溶き方と
      膠水をいかに細かく溶き下ろすかにかかる。
    • 絵の具と膠水の調合する量は、季節により加減する
      夏は、膠の粘度が弱いので、冬より強めにする。
      表具で剥脱することがあるのは、
      夏制作の作品に多い。
    • 夏は、膠が腐敗しやすいため、毎日作り変える。
    • 防腐剤入りの瓶入りがあるが、まだ便利とは言えず、
      自分で作るに越したことはない。
    • 棒絵の具は、ていねいにやるには、薄い膠水で練り降ろし、
      更に、とろ火で指で擦りながら、一度乾かす。
      これを「焼き付け」というが、これに少しづつ水を加え、
      指ですりおろし、皿を斜めにして、上澄みを使う。
    • 胡粉、黄土、丹は、一般に粒が荒いので、乳鉢で数百回擦り
      膠水を加え皿に練りつける。膠水を加減する方法は、
      人差し指に膠水をつけ、中指に重ね、伝わるようにして練る。
      ※参考写真あり
      一気に膠水を加えると、溶き降ろす時に、膠と水とが分離したり、
      絵の具が一様に細かくならなかったりする。
    • 十分に膠水がしみて、どろどろになったら、とろ火にかけ、
      指で静かに練りながら、焼き付けする。
    • 使用するときは、前出した方法と同様に、人差指に水をつけ、
      中指で練り降ろす方法で溶き下ろす
    • 黄土は、乳鉢で擦るときに少量の胡粉を混ぜると
      扱いやすくなる。
    • 岩絵の具は、皿の絵の具が十分にかぶさる程度まで
      膠水を入れる。
    • 臙脂(えんじ)は、志那(中国)産の紫草の汁を
      丸型の綿にしみこませたもの。
      適当な大きさに切ったものを碁石ほどの大きさにむしり、
      熱湯をかけて絞り、薄紙で漉して湯煎して乾かす。
      (鉄瓶の蓋を外し皿を乗せて、その熱で絵の具を乾かす)
      これに、水滴を入れ、溶けた色汁を皿にとって使う。
      膠を混ぜてはいけない。油を嫌うので、指を使ってはいけない。
      最近、皿に説いたものを売っているが、
      自分で煮たもののほうが、色が鮮やかである。
    絵の具を溶くところ
    絵の具を溶くところ
    ⑸調色 色の出し方と混合色について
    • 調色において、胡粉を少量加えることで
      落ち着いた色調を得ることができる。

      (岩絵の具を除く)
    • そうして加えた絵の具を
      黄土 → 黄土具
      臙脂 → 臙脂具
      と呼ぶ。
    • 落ち着いた紫の作り方
      洋紅+藍  → 臙脂+藍+少量の胡粉
            → 臙脂+白群 → 冴えた上品な紫
      ※この時の白群は京都の放堂の白群と指定されている
    • 鶯茶(うぐいすちゃ)
      雌黄 + 墨 + 胡粉
    • 白緑茶
      白緑 + 雌黄 + 胡粉 + 墨
    • 丹墨茶
      丹  + 雌黄 + 胡粉 + 墨
    • 一般に粉絵の具と墨は混ざりにくい。
      膠の加減に注意が必要。
    • 岩絵の具は、
      粒子の大きさと比重が同じものを選ぶ
      ことが肝要。
    • 岩絵の具を混ぜるときは、皿で丁寧に混ぜてから、
      膠水を加えるべき。
    • 金泥は、混ぜ色として色を落ち着かせ、
      品位のある色調を得ることができる。

      特に、緑青の細かいものは良い効果がある。
    • 一般に絵の具は、膠の加減と筆触(タッチ)によって
      色調が変わる。
      特に、朱・黄土・白緑・白群などは著しい。
    • 朱は、美人画には、最も多く使われるので、
      色々な調色法がある。
    • 朱から2種類の色を取り出す。
      黄口の朱…朱を溶いたものに水を加え、
      その上水を別の皿にとって、その沈殿したものに
      膠水を加えれば、粒子の細かい美しいものになる。
      丹に近い色。

      赤口の朱…初めの皿に残ったものに膠水を加えれば、
      濃い朱の色、冴えた色として使える。
      着物の襦袢などに。
    • 朱の変化を加える…下塗り(黄土・洋紅・臙脂など)
    • 臙脂は洋紅に比べ深みのある色。
      美人画では、なくてはならない色。
      草花にも多用する。
      しかし、伸びが悪く、浸透性が強く、油気を嫌う。
    • 岩絵の具の色を変化させる
      …下塗り(草汁・黄土・白緑・白群など)
    • 岩絵の具は、フライパンで焼いて
      落ち着いた色にすることがある。焼過ぎは色を失う。
    • 岩絵の具を塗り重ねるときに、はじく時は、
      薄荷油(はっか)を混ぜると良い。
    • 背景などで、岩絵の具の上に他の色でぼかす時
      ホルマリン(100倍液)をうすく刷くと良い。
      これに使った筆は硬くなるので、よく洗う。
      人体に良くないので、注意。
    • 金泥銀泥は、膠の濃度は半量で良い。
      溶く時に摩擦するほど光沢を増す。
      焼き付けも2,3度繰り返すと良い。
    • 金泥は、常に温めて塗ると発色が良い。
      煙草盆などに火を入れておきかざすと良い。
    • 指輪、かんざしなど、金属を描く場合、
      丹の具を塗った上に
      黄膠(きにかめ:丹と膠水を混ぜたもの)を引き、
      金泥を塗り、乾いたら真綿でこする。
      光沢が増す。
    • 銀泥の下塗りは、白緑などを塗る。
    • 銀が黒く酸化するのを防ぐには、
      唐辛子を入れた水、または大根のすり汁を塗ると、
      比較的保てる。
    • 丹と隣り合わせにすると、両方黒くなるので、
      注意が必要。
    • 皿に入ったホコリの取り方「コキ上げ」
      絵の具皿にたっぷりと水を入れ、斜めにし、
      穂先の十分にある面相筆で、溜まった絵の具を
      水のない上のほうへ筆を押しつけながら
      コキ上げる。もっとも簡単な方法である。
      ※参考写真あり
    • この他、張紙、箔押、砂子振など
      書きたいところだが、高等技術に属し、
      文字上で学習できるものではないので
      述べることをやめる。
    コキ上げ
    コキ上げ
    わたし

    各項目ごと、ていねいな説明がなされています。
    ちょっとしたアドバイスもありがたいですね。

    そして、深水さんは、写真の利用も薦められていて、
    ちょっと驚きました~

    また、臙脂って、わたしは使ったことがないので
    興味津々です~

    ホルマリンとかの話も聞いたことがなかったです。。

    時代背景も今とは少し違っているのが
    散見されて、しみじみと興味深いです。

    ビリー

    僕は、写真でデモンストレーションしている
    深水先生の手なのか?が、、、気になる~(笑)

    わたし

    では、写真も参考にされた作品ということで、
    口絵のご紹介をします。
    モノクロなので、歯がゆいのですが^^

    秋晴 昭和4年 帝国美術院展覧会出展
    秋晴 昭和4年 帝国美術院展覧会出展

    『秋晴』について、伊藤深水さんの注釈

    澄み渡った青空には、
    スイスイと赤とんぼの群れが飛んでゆく。

    野草のすべては秋の日差しに輝いて
    金色の諧調をかなでている。
    天地はまさに秋晴れである。

    二人の麗人は清澄なる秋の空気を呼吸しながら、
    フェルト草履を軽やかに運ぶ。

    朗らかにしかも優雅なる現代女性を描出するに
    絶好なシーンではないか。