日本画家【伊東深水】「美人画の描き方」可愛い後輩画学生のために!…著作から日本画を学ぶ①序言~第1章 総説

爪弾き
爪弾き
    蛍 伊東深水 昭和7年7月作
    蛍 伊東深水 昭和7年7月作 本書のための作品
    わたし

    伊東深水といえば、大正、昭和の時代に活躍した日本画家。
    美人画で有名だね。

    ぴーちゃん

    人気の画家さんだから、近寄りがたいイメージがあるよ。

    わたし

    大御所だからね。。
    でも、家の事情もあり、9歳から、看板屋に住み込みで働いて、夜に絵を学ぶ生活してたっていうから、美を追求した苦学生なんだね。

    13歳の頃には、師匠の鏑木清方に入門し、翌年には、大きな美術展にも入選したらしい。その後も数々の美術展(文部省美術展や日本美術院展など)に入選を果たし、『天才少年』と言われ、18歳の時には、新聞社3社の挿絵の仕事もしていたって。

    ぴーちゃん

    若い頃から、すごかったんだね。入れ込みようが違う。

    わたし

    そんな伊東深水さんの書かれた本が、なぜか、我が家にあるのよ。
    1932年(昭和7年)、人物画の再興を目指し、深水さんが「青々会」を設立した年に、発行されたもの。34歳の時。

    ぴーちゃん

    へえ~!どんな思いで絵に向き合っていたのか、知りたい❣

    わたし

    そうだね、昔の字体で書かれているから、難しいけど
    大事なことが書かれている気がするから、ていねいに読んでいこう。

    それにしても、小学校もあまり行っていないのに、難しい漢字で読み書きできるなんて、それだけでも尊敬するわ。

    『美人画の描き方』日本画家「伊東深水」の指南書を読む

    美人画の描き方 伊東深水著
    美人画の描き方 表紙 深水作
    美人画の描き方 伊東深水著
    美人画の描き方 背表紙
    美人画の描き方 伊東深水著
    美人画の描き方 伊東の捺印 
    美人画の描き方 伊東深水著
    美人画の描き方 第1章
    「序言」

    序言(4ページ約1500文字分を要約)
     ・・・この本は、すでに日本画の心得のある人で、美人画を志す人のために、技術や経験を  述べ記す。順序として、工程は、外せないので、初歩的な工程の説明も記す。
     
     文字の上では理解しにくい技術面は、先輩を頼るなり、努力が必要。

     美人画は、風俗画として、偏見を持たれることもあったが、明治から昭和に至っては、芸術上必須の分野になり、さらに、文化の変遷を伝える重要な役割を持っている。単に、懐古的な美観に陶酔するのでない。現代世相を写す美人画についてであることを読み取ってほしい。

     この本の発刊に際し、恩師鏑木清方先生のご厚意に深く感謝。

    抜粋(旧字体や句読点の位置などで読みにくいものは、読みやすく変えてあります)

    ・~初歩的なことでも私の経験上、諸君の便宜になると思うことは努めて記す事とした。諸君は、それによってさらに委(くわ)しき基本的な知識をことになるのであるから我慢しても読まれんことを希望する。

    ・一度や二度の失敗投げ出すようなことでは、何事も成就するものではない。
    この点も初めから十分覚悟してかからねばならぬ。

    ・美人画は、風俗画の一分科であり、この風俗画は過去江戸時代においては、一般に「浮世絵」ととなえられ、これは、おもに、美人画を中心として役者絵および風景画を含んだ木版画の一派を指して言う名称であった。当時においては、社会関係上かかる市井風俗等に筆を執ることを卑しく見る傾向があり、古格を守る狩野・土佐の画家は、決してこの方面に絵筆を染めなかったのである。しかし、それは今日から見れば、甚だしい偏見であり、(中略)

    美人画は、ただ単に芸術上必須の一項目として存在するのみならず、社会風俗の推移、文化の変遷を知る上に一つの重要なる役割を持つ。これは、あえて江戸時代の浮世絵が務めている役割を顧みるまでもなく、あまりにも明瞭なる事柄である。

    ・すなわち、思想の進化・時流風俗の推移は、最鋭敏に婦人の服飾に表れる。子の服飾・風俗を如実に写すことに使命の大半を有する美人画は、畢竟、ひっきょう時、世相を後世に伝ることに於いて重要な役目を持つ。

    ・これは、写真術の優れた今日に於いてもまた、写真機の映像とは異なった生きた時代相の一面を示し、かくて美人画の存在価値は二重の重点を有することとなるのである。

    ・ただし、美人画の中には、過去の時代風俗の懐古的美観に陶酔してつくられる作品も少なくないが、かかる作品は私の ここに望む美人画とは自らその内容及び存在価値の異なるものである。

    ・私が説こうとするところは、もっぱら現代世相を写す美人画についてであるから読者は、その心して、読まれんことを希望する。

    畢竟… 究極 結局 詰まるところ

                          「美人画の描き方」伊東深水著 序言より
    ぴーちゃん

    美人画の発展に意欲を燃やす気持ちが表れてるね。

    わたし

    だね。背筋伸ばして、次へ読み進めるよ~

    「第一章 総説」 

    「第一章 総説」 (4ページ約1500文字分を要約)
    ・・・画家としての心構えが一番大切。まずは、画材の一つ一つに気を配る。少しくらい下手であっても、描くものに対し、真摯に向き合うことが大切。立派な芸術は、立派な人格者であってこそ成就されるべき。美人画を描こうとする前に、女性を描こうとしなければならない。「美しい女」の固定観念にわずらわされるべきではない。

    抜粋(旧字体や句読点の位置などで読みにくいものは、読みやすく変えてあります)
        (抜粋と言えないほど、全文に近いほど載せています^^)

    ・~まず自分の仕事に対して潔癖であるべきことと、製作に際して、万事用意周到であること、即ちすべて自分の目的にむかって極めて忠実であり、敬虔(けいけん)な心持を忘れないことである。

    敬虔… 敬い慎む気持ちの深いさま。神仏を深く敬い、仕えるさま。

    ・一色の式の絵の具を溶くにしても、潔癖にしかも用意周到に取り扱わねばならぬ。例を挙げて言えば、絵の具や紙や絹は特別の場合のほかは大いに油気を忌むものであるから、まず絵を描く前には手指を清潔に洗うべきであるし、また絵の具は、塵埃を忌むものであり、美しく塗ったり描いたりするには、埃の入った絵の具では到底できるものではない。だから、絵の具には、せいぜい埃の入らぬよう注意しなければならない。筆洗の水のごときも、できるだけ濁ったものを避ける必要がある。

    ・また、一つの構図を作り、製作にかかる場合には、努めて緻密に頭脳を働かせ用意を周到にして一つの作品を作らねばならない。と言ったからとて、それは何でも理知的になれというのだと間違ってはいけない。ことに、創作の第一歩は、興趣(きょうしゅ)の神来(しんらい)に待つものであるから、理知の跳躍に情操の泉をからしてはいけない。

    興趣… 物事から感ぜられる低俗でない面白み
    神来… 神が乗り移ったかのように突然、霊妙な感興を得ること

    ・これ、興趣の神来を招くまでの心の用意、それはやはり周到緊密を要するものであり、また、ことにこれを構図化する上においては、あるいは、その人物の手足の動きにも必然的な約束を持っていなければいけない。

    ・背景に草花を添えまたは樹石を描くにしても、それがその場所を示す要素となるべきだし、衣服の模様・紙形は無論のこと、すべて他から何か質問や批判を受けても、一通りこれが答えと説明ができるだけの用意があってほしい。

    ・絵は、初めから小器用にして軽妙であるよりも、少し位つたなくてもシッカリと重味のあるほうがよい。いわゆる鈍重(どんじゅう)の絵のほうが深さがある場合がある。したがって初めから塗り技巧を乱用して上滑りの画作せぬよう注意すべきである。

    うまい絵よりも良い絵を描け。

    ・良い絵はあながち技術の功拙によるものでなく作者の態度の真面目・不真面目に因るもの、すなわち作者の態度によって決定さるべきものである。この態度は、畢竟自らの天才を発揮し人格を修養する一つの方法手段になるのであり、要するに立派な芸術は、立派な人格者にしてはじめて成就されるものであるということを心得なくてはいけない。

    ・美人画を描く人の初歩において屡々(しばしば)陥り易き弊(へい)は、必ず「美しい女」を描こうとすることである。ところがこれが初学の人においてはかえって悪い結果を招くことになるのである。何となれば初学者の「美しい女」の基準は、ほとんど自己から生まれ創(はじ)められたものでなく、先輩または古人の描いた美人画によって概念づけられたものであり、また直接それ等を参考として描こうとする結果は、結局自然の美に対する自己の眼を眩(くら)ましめ、ついにはこれ模倣虚偽の境地から脱することのできない低級の画境を彷徨(ほうこう)することとなる。ゆえに初学者は、どこまでも写生を基礎として製作に専念しなければならぬ。

    弊…ならわしとなった悪さ

    ・すなわち美人画を描く前に、まず、「女性」を描こうと心がけることが肝要である。もし、自然から受けた女性の感を素直に描き得るようになれば、自らその裡(うら)に宿った美感に対する自己の眼を開き、独創の境地を見出してこれを把握するにいたるであろう。

    ・この心がけは、あえて美人画といわず、すべて作家が製作し また自然に対する時の一般的心がけの要綱であるが、ことに美人画作家の陥りやすき通弊を挙げてここに注意する次第である。これを要するに製作中は他人の製作を見ないでどこまでも自然を基礎として自己を生かすように心がけねばいけない。

    ・ことに三色版口絵などから影響された作品は、ただ安っぽい仕事以外には何も齎(もたら)さないものである。

                     「美人画の描き方」 伊東深水著 第1章 総説より
    ぴーちゃん

    ホント、背筋がピシッとしますね。

    わたし

    少し長かったけれど、絵を理解したい人には、心に響くことが書かれていたと思いました。
    Aiを使って絵も描ける時代ですけど、生み出される作品を良いものにしたいなら、その人の人格とか、精神性は、とっても大切だと思いました。

    では、次からは、作画の内容について、章を進めていこうと思います。