【日本画 風景の描き方】まんが「日本昔話」の背景をまねてみた

心の旅

    なんでもないような絵を見て、
    ふいに湧き上がってくる感情があります。
    そんな経験ないでしょうか。

    私は、最近、子供のころ観ていた「まんが日本昔ばなし」
    を思い出し、その中の一話「天狗とトメ」を観たのですが、
    なぜか、最後のコマの風景に入り込んでしまいました。
    登場人物のいない風景へ、です。

    ちょうど風景画を描きたいなあと思っていたところなので、
    まねて描いてみることにしました。

    ちなみに、「まんが日本昔ばなし」鑑賞が、
    最近のマイブームになっています。
    なぜ、惹かれるのでしょうね^^

    そもそも、このまんが、デフォルメが奇抜なことも
    人気の一つだったと記憶しています。
    また、見た目も強烈なキャラクター。
    それと、ストーリーが大事。

    ストーリーは、甘辛どちらもあります。
    今回は、ハッピーエンドです^^
    辛い話は、教訓の意味が強かったのでしょうね。


    もともと日本の昔話は、出所の地域がわかる、
    実際の言い伝えとして残っているお話だから、
    土地の力と人の想いの力があるのは間違いなさそうです。

    今回、日本画で再現したのは、「天狗と留さん」のラストに、
    何気なく添えられたような夕焼けの風景。
    それが心に刺さってしまったからです。
    その理由や魅力を少し考察していこうと思います。

    なぜ響く?日本昔話「天狗と留さん」のあらすじ


    両親を亡くした男の子トメの話です。

    畑も兄弟もなく、犬のポチとあばら家で暮らし、
    村人から頼まれた荷物を運ぶわずかなお金で、
    生計を立てていました。

    今の小学5、6年生くらいでしょうか。

    ある時、遠くの町へ荷物を運んだ帰りが遅くなり、
    夜道で天狗が現れました。

    天狗は、突風を起こし、トメを風に乗せて、
    町へ豆腐を買いに行かせました。

    豆腐を手にすると、またもや天狗の起こした疾風で
    元の場所に戻りました。

    トメは、小さいながらも勇気をもって、
    駄賃を請求したところ、
    次の日には、たくさんのお金をもたらしてくれました。

    それを資金に、畑の土地を買うことができ、
    親と同じくお百姓さんになれました。

    トメの一生懸命作る作物は、いつも大豊作で、
    たちまち村一番の立派なお百姓になれました。

    トメは、苦労したことを忘れないでいようと、
    天狗にあったときは、豆腐をたくさん買って、
    みんなで分け合って食べたということです。

    天狗に合うことが頻繁にあったのかどうか、
    気になるところではありますが。

    このお話の教訓としては、
    《困難を乗り越えれば、良いことを授かる》でしょうか。

    また、けなげに頑張るトメをやさしく見守る
    村人との関わりを描いた、心温まるお話でもあると思います。

    そして、天狗は、妖怪と恐れられているのですが、
    話の通じる頼もしい存在という面もあったように思います。

    「まんが日本昔ばなし」のミニ知識

    1975年1月から1994年9月に、952回も全国放送された長寿番組。
    30分放送で、2話ずつの放送。放映は、毎日放送。
    出演者は、市原悦子、常田富士男
    制作は、3者の共同。愛企画センター、グループ・タック、毎日放送→MBS
    受賞歴:昭和50年度の厚生省児童福祉文化賞をはじめ、10回以上の受賞

    後世に残すべき、子供と一緒に見たい、など、人気や需要があり、
    以後、ローカル枠や有料放送など含め、再放送多数。
    話の結末は、ハッピーエンドのものだけでなく、考えさせられる話や、理不尽な結末のものもある(「キジも鳴かずば」「吉作落とし」「さだ六とシロ」「十六人谷」「亡者道」など)。また、多くの人命を奪う災害をテーマにした作品もある(「山つなみ」、「稲むらの火」、「みちびき地蔵」など)。

    「日本昔話」らしい背景の描き方、表現方法の特徴

    • 山々の姿を望む田舎の風景デフォルメで注意をひく…視線は光の方へ
      トメが村で豊かに暮らしていける安堵感を感じて、
      最後の夕焼けシーンになります。

      そこにトメの姿は描かれていないのですが、
      自分がまるでそこに居るかのように、
      夕日に照らされた景色を見渡します。

      ユニークで、デフォルメされた山々。
      マンガらしい誇張。視線誘導が効いているのか、
      次第に視線が「夕陽」へ向っていくのです。
    • ありきたりの夕焼けの風景…であっても心がひかれる、色にひかれる
      光と影の強いコントラストを表現するのに、
      補色を使って際立たせています。
      夕陽の黄色い光の補色は、青紫色で、
      左側の大きな山の影は青紫色に描かれています。

      空の色は紫系で、
      このまま夕焼けの黄色い光を浴びた雲を描くと、
      ハレーションを起こして、画面がちらつくだけの
      気分の良くない結果になってしまいます。

      そこで、緩衝地帯として、無彩色の白色の雲で周りを囲い、
      ちらつきを和らげ、かわいらしさを醸し出して、
      けなげなトメの心情をも想起させるのに
      役立っているように思います。
    • 家屋や木々の描き方単純な表現は強い
      かやぶき屋根を思わせる家。
      のびのびと枝葉を伸ばす木々。
      風景を構成する一部である木々や家までも
      大きくデフォルメしてとても印象的です。

      単純な形であっても、観る人により、
      それを認知して思い浮かべることができるのは、
      すごいことです。

      それは、年齢を重ねるたびに情報や思いが重なり、
      知らないうちに深みが増してくるのでしょうね。
    • 登場キャラクターの存在感
      個性あふれる登場キャラクターの存在感がすごい。
      まんがの一番の威力なわけですが、
      子供が主人公の場合、つたなさを強調した表現は、
      好感度をさらにアップ。

      天狗は、それなりに恐ろしげだけれど、
      温かみを感じる2頭身。

      団子屋のおばあちゃんや豆腐屋のおやじさん、
      犬のポチ、ほか、役に沿った素朴な風貌が絶妙で、
      そこには、人情味を感じるものなんですね。

    日本画で風景を再現してみたら

    枠塗り
    模写 部分
    模写 部分 加筆(人物、犬、狐)

    上の写真は、日本画で再現していく過程です。
    0号の小さな自作パネルに、雲肌麻紙です。

    絵の縦横の比率が原画と違うので、
    適当に延長しました。
    枠塗りもし、遊びました。

    下塗りは、水干絵の具で。
    合成岩絵の具で、10番、11番、12番の細かいもの
    に留めました。

    また、人物と動物も加筆しました。
    おばあちゃんらしき人物は、私自身のつもりです。
    トメのおばあちゃんにでもなった気分です。

    この夕陽をいろんな生き物たちが、
    眺める一瞬を共有しているかと思うと、
    ジーンとくるような温かい気持ちになりました。

    まだ未完成です。狐に影がありませんし^^


    • 絵の具のチョイス…日本画の岩絵の具のクセを覚えよう…明度、彩度!
      画面左側の山の大きな影の部分は、
      夕陽に対する補色を感じさせつつ、
      彩度の低い絵の具をベースに置いたのですが、

      最終的には、その影の中にも、家や木々の存在は、
      アクセントにしたいわけです。

      原画では、物のオーラのように闇に浮かぶ光の輪郭線を
      岩絵の具では、粒の大きさも考えて、
      彩度と明度を決めないといけません。

      しっくりこず(暗すぎた、明るすぎたなど)
      絵の具を2度ほど、洗い落として、描き直しました。

      基本的なことですが、岩絵の具の個性は、
      (私は岩絵の具のクセと呼んでいますが)、
      体験して覚えるしかないなあとあらためて感じました。

    • 日本画制作ならではの「」の効能
      画面に絵の具を乗せた後、絵の具が定着するまで、
      (水が蒸発するまで)待つ時間があります。

      その時間に身を置く。
      その時間は、自分を内観する時間になるのです。

      これは、
      疲れて手を停めた時の「」とは違うように感じます。

    • 癒し効果
      トメが幸せに暮らしていそうな牧歌的な田舎の絵です。
      ですが、観る人にとっては、個人的な経験から浮かび上がる
      感情があると思うのです。

      人として誰もが感じたことのある
      共通項の感情のほかに、
      明らかにオリジナルな経験から来る感情ですね。

      その、オリジナルな経験は、
      人生の課題となっていることがあります。

      心理学的な分野では、
      インナーチャイルドと言われていて、
      その存在が浮かび上がってくるわけです。

      ああ、自分は、こういう場面で
      心が動くのかと、再認識するわけです。

      認識できただけでも癒し効果があると言われていて
      私の場合、そういう作用を感じて、とても癒されました。

    • 日常の空間に飾ってみつめる
      まだ未完成なのですが、部屋に飾ってあります。
      自ら描いてみたことで、瞬時に追体験ができます。

      観ると、追体験をするモードに容易に切り替わるのです。
      そうして癒される特別なスペースができるのは、
      本当にうれしくて、必要なことだと感じています。

    まとめ

    まんが日本昔ばなし「天狗と留」の一幕の風景を
    日本画で模写してみた感想と考察を述べてみました。

    絵を描くという点では、模写は、気が楽でした。
    ただし、まんがと言えど、絵の具使いは、慎重さが必要ですね。

    特に、日本画の場合、部屋の温度や湿度も気になります。
    膠を多めに溶いてしまったときは、悪くならないかと、
    心配もありました。

    それでも、そういう「ま」があればこそ、
    日本画の良さと思い、向き合っていこうと思いましたね^^

    画題として、昔ばなしは、
    今の日本とはかけ離れた生活観ですが、
    心に響く部分があります。

    制作中、一緒に夕焼けを見ているような気持ちになりました。
    トメのこと、団子屋のばっちゃのこと、
    旦那衆のこと、豆腐屋のおやじのこと、思い浮かべて。

    また、自分がもしも、みなしごだったら
    どうしていたのだろうとか、自分と重ねながらの制作で、
    癒しのよい時間を過ごせました。

    日本昔ばなしは、ハッピーエンドばかりではないので、
    自分がどんな気持ちになるのか、描き比べてみたいと思いました。

    また、まんがのキャラクターを日本画で描くと
    どうなるのだろう、という興味も湧きました。

    それにしても、日本という国は、
    ギネスに載るほど、ぶっちぎりで世界一長く存続している国。
    言い伝えもたくさんあるということ、誇りに感じます。

    それでは、また。

    参考:もう少し詳細なおはなし…よければ読んでみてね。

    昔々、三重県の大矢知村のはずれに留というみなしごがいました。

    生まれつき働き者の留は、毎日村の旦那衆に頼まれて、荷物を運び、そのわずかな駄賃で暮らしを立てていました

    ある時、遠くの町へ荷を運び、日が暮れてしまったので、ある家に一晩泊めてもらおうとお願いしたが、そっけなく、断られてしまい、とっぷりと暮れた山の夜道を帰ることになってしまいました。


    村の団子屋のおばあちゃんが言っていたように、天狗が出るのかな?と、おっかなびっくり歩いていると、案の定、天狗が大きな杉木立の上から、留に声をかけてきました。
    天狗は、『腹が減ったので、豆腐を買って来い』と、留に使いをさせるためでした。

    天狗が起こした疾風で、留をあっという間に遠くの町の豆腐屋まで飛ばしてしまいました。豆腐屋は、天狗のお使いだとわかっている様子で、お代を要求せず、豆腐を持たせてくれました。

    と同時に、またまた疾風が吹き、天狗の要る場所まで飛ばされました。

    天狗は、喜びました。留は、けなげに駄賃を要求したので、天狗は、生意気な小僧と言いながら、『これからいいことが授かるであろう、それが駄賃だ』と言い、また、疾風で団子屋のおばあちゃんのところまで飛ばされてしまいました。

    団子屋のおばあちゃんに、それまでのことを話すと、『天狗はうそをつかない』らしいとのこと。

    次の朝、ポチがおしっこをしてしまった土間の土を留が片付けていると、そこから一文銭のぎっしり詰まった壺が出てきました。留は、天狗の言っていたことはこのことかと、大喜び。

    次に、外の小川で、顔を洗おうとすると、川底には、キラキラの小判がいっぱいありました。

    たくさんの駄賃をもらった留は、両親のように百姓になると決めました。

    早速、村のはずれの荒れ地を買い、朝から晩まで一生懸命に耕し整え、不思議なことに、米でも野菜でも、留のつくるものは、いつも大豊作で、たちまち、村一番のお百姓さんになりました。

    大金持ちになった留は、天狗のことや、山のような荷物を運んで苦労したことを忘れないために、天狗に会ったときは、豆腐を買ってきて、みんなで食べるようにしたということです。

    おしまい。

    ちなみに、この話は、別のあらすじもあるようです。
    ・・・留は山で薪を拾っていると、大きな嵐に巻き込まれ、嵐の中、一軒の古い家にたどり着き、雨宿りをさせてもらいました。そこは、天狗の夫婦の家で、留のことを気に入り、様々な術を教えてもらいました。立派な天狗に成長した留は帰省し、天狗の術を使って村を助けました。村の人々は留の優しさに感謝し、彼を村の英雄として尊敬しました。留は、人々を助けながら幸せに暮らしたということです。