「美人画の描き方」第3章 器物 用器・材料
80年くらい前だけど、画材自体は、
今とそんなに変りないと思うんだけど、どうかな?
ホント、今と変わらないみたい。
どんなふうに紹介しているのか
さらっと、見ていきますね。
- 硯・・・あまり粗末なものは、墨のおろし方が荒く、
練習用としても良くない。装飾はなくても良い。
名石を選ぶ必要はないが、質の硬いものがよい。 - 筆洗・・・水の汚れ具合のわかる、白磁製が良い。
2,3仕切りのあるもの、なるべく大きなものが良い。 - 乳鉢・・・ガラス製もあるが、陶製が良い。
大きさは3寸(直径約9センチ)くらいのも1個あれば良い。 - 皿・・・白磁製で、1枚ずつのものを大小5寸と3寸
(約15センチ、9センチ)を各数枚あれば足りる。
菊皿などもある。 - 筆・・・面相、線描、削用、隈取など、
大中小あり、適当の大きさのものを
2~3本用意すればよい。 - 連筆・・・小場面に用い、筆と刷毛の両用を成す。
3~7本くらいまでが適当。 - 刷毛…大小種々、毛質も種々あり。
礬水(どうさ)用3~4寸(約9~12cm)と、
隈取用2寸(約6cm)、4~5寸(約12~15cm)
位のもの描く1本は必要。 - 木炭ばさみ・・・なるべく丈長のものを用いる。
- 羽箒・・・なるべく大きなものを用いる。
- 定木(定規)・・・『曲1尺のものは木製竹製ともに、溝あるもの』
※曲1尺については、さしがね、かねじゃくなどと読むべきか不明。 - 雑巾・・・手ぬぐいまたは、白木綿を用いる。
- 毛氈(もうせん)・・・志那製。色は白が良い。毛布も代用できる。
畳1畳くらいの大きさがあれば良い。 - 廣蓋(ひろふた)・・・用具の運搬用。大きな盆も代用可。
取っ手があると便利。※なぜ、蓋を指しているのか不明。 - 張枠(はりわく)
※絹本製作用の木枠についてなのでここでは省略。 - 假張(かりばり)・・・紙を貼るためのもの。
ふすま1枚の大きさがあれば良い。他に、2尺、3尺
があれば都合が良い。(約60cm、90cm)
経師屋(きょうじや:表具屋)に作らせること。 - 乗板(のりいた)・・・絵の上に渡してその上に乗る。
- 膠(にかわ)・・・三千本膠は、必ず絵の具屋の精製品を。
※接着剤なので、絵の具屋以外でも流通していたらしい。 - 木炭・・・西洋画用は硬く、日本画用は柔らかい。
杉箸くらいのものを用いる。 - 鉛筆・・・和製で良い。硬柔2種を用意。
- 紙・・・写生用の画学紙、
練習用の美濃紙・土佐唐紙・画仙紙(裏打礬水引き)、
草画用の鳥の子紙・奉書紙・大昂紙・大瀧紙・麻紙などの国産品
※草画は水墨、淡彩で、礬水(どうさ)をひかない紙に書く
※奉書紙は公文書など大事なものを書くための厚手の高級紙
※大昂紙…詳細不明
※大瀧紙…詳細不明。福井県の越前紙か。。
※志那産については記載省略 - 墨・・・墨色は作品の品位に関係するので
学習中でも粗末なものはいけない。 - 絵の具・・・棒絵の具、粉絵の具、岩絵の具の3種類。
岩絵の具には模造品があるが使わないほうが良い。
陶製の器に練りこめたものがあるが、写生にはよいが、制作には、不向き。
棒絵の具:藍、洋藍、洋紅、岱赭(たいしゃ)、雌黄(しおう)
粉絵の具:胡粉、黄土、朱土、丹、朱、白緑、白群、焼白緑
岩絵の具:緑青、黄緑青、茶緑青、焼緑青、群青、
珊瑚末、水晶末、岩胡粉、
臙脂(えんじ):植物からとった紅色の色素を
円形の綿にしみこませたもの。
※中国から伝わった染料。
泥類:雲母泥、銀泥、プラチナ泥、
金泥(焼金、仲色、常色、水金)
旧字体が多くて、読み解くのに、時間がかかったわ~汗
紙の名称など、不明な呼称もありました~汗
やはり、今と違って、手に入れるのに難しそうな画材も
ありましたね。
ただ、膠(にかわ)については、昔のほうが、
一般的なものとして出回っていたようですね。
動物の骨などを原料にしているものだと、
製造業者の数が減っていると聞いているので、
この先の膠の運命が気になりますが、、
また、「臙脂」について、知らないことがあったので、
また、調べてみたいと思います。
それはさておき、
絵の具の保管方法のアドバイスなども書かれていて、
とても親しみを感じることができました。
モノがあふれている現代より、
やはりモノを大事にする気持ちが細やかなように感じました。
「美人画の描き方」第3章 紙の貼り方
紙の貼り方
練習用の製作としては、ふつう、礬水引き画仙紙に描く。
「美人画の描き方」伊東深水著 第3章
(中略)
假張(今でいうパネル)に貼る必要がある。
(中略)
紙を広げ、水を引くか霧を吹くか、、、四隅に糊をつけて
(中略)
これを返して假張につけ、表面から乾いた刷毛で四隅のほうへ
刷いてしわを伸ばし、糊のついたところは、
更に上から乾いた紙で軽く押さえておく。
(中略)(中略分の要約:糊部分を残して途中で軽く
水を引いて乾燥を防ぐ)
(中略)
紙を返す時、箆(へら)の先ほどの入る小さな紙片を
用紙と假張との間に挟んでおく。
(中略)(中略分の要約:その理由は、絵が完成した後、
絵をはがす時に、きれいにはがすことができる)
絹の貼り方(中略)
礬水(どうさ)は、水1合・膠1匁(もんめ:3.75g)
生明礬(なまみょうばん)0.5分(ぶ:匁の10分の1なので、0.375g)
の割合で良い。
はじめ水1合を鍋に入れ、膠(三千本膠:名称)を1寸(3cm)位に折って
これに浸し、数時間置くと寒天状に柔らかくなる。
これを火にかけて煮沸して水1合くらいに煮詰め、杉箸でよく攪拌し、
膠がスッカリ溶解してから明礬を加え、おろして熱が醒めてから布巾で
漉し、塵を去って用いる。
鍋は土鍋が良く、火は炭火が良い。
瓦斯(ガス)の強い火ではかえって平等に溶解しないことがある。
以上は、礬水の製法である。
細かいご指摘をされてますね。
礬水に関しては、私の先生からは、膠を鍋で沸騰させないように
とのことだったので、少し驚きました。
その頃の膠の製法や成分の違いがあるのかな?
その点については、不明です。
また、炭火でゆっくり熔かす
これにも、驚きました。
炭は、身近な手段だったということなのでしょうね。
今は電熱器を使う人が多いのかなと思います。
細かな所作の説明は、今なら動画で簡単に伝えられるところを
文章で伝えるのは、本当に、頭の下がることですね~!
昔の画学生の苦労が感じられます!
では最後に、著書の口絵をご紹介します。当時の作品です。
『暮方』について、伊藤深水さんの注釈
「蝙蝠(こうもり)が出てきて浜の夕涼み」
まったく夏の暮方ほど心地よいものはない。
庭に打ち水をする、そよ風に風鈴が鳴る、
提燈(ちょうちん)に火がはいる、
行水が始まる、涼み台には、浴衣がけに団扇が動く。
この絵の画因も、それらの気持ちから始まる。
即ち、そうした夏の夕暮れの下町に醸さるる一種独特な
空気を強調せんとする制作意図に他ならない。
伊東深水先生は、中学生ぐらいの頃には、もう
苦学して日本画を学んでおられたんですよね
画材については、どんな風に指南されていたんでしょうね